紺碧の空

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2008/09/08 22:31

記事全文

暑中お見舞い申し上げます

2008/07/28 12:30

暑中お見舞い

このサイトに足を運んでくださる皆様へ
暑中お見舞い申し上げます。
全国的に異常とも思える暑さに見舞われておりますが、お変わりありませんでしょうか?
まだまだ暑い日が続きます。
夏ばてや熱中症には十分お気をつけられて下さいませ。
画像は、地元瀬戸内の風景であります。
少しでも涼しさを感じて頂けたら幸いです。

今後とも『紺碧の空』を宜しくお願いいたします。

viper
ご挨拶記事全文

紺碧の空〜葬送への開演〜

2008/07/28 12:05

南ベルカの空は、すでに連合軍のものとなりつつあった。
オーシア連邦を始めとする連合軍の国内侵攻が始まってすでに4日……ベルカ空軍の抵抗は、何度かの空中戦となって形に現れていた。
戦闘が起こる度、国内の航空戦力はその貴重な戦力をすり減らし、迫り来る連合軍を前に何等有効な打撃を与えることが出来ずにいた。
2日前には、シェーン平原に展開していた第2次対空防衛線が突破された。
タウブルグにある対空防衛化学レーザー兵器『エクスキャリバー』を実戦投入することで、辛うじて制空権の維持は果たしていたが、戦略的に考えれば敗北といっても過言ではなかった。
開戦から約2ヶ月、ベルカ空軍の航空部隊は熟練要員と機材を失い、それに伴う補充と再編成の連続が、各航空師団間の連携を崩壊させ、さらには残り少ない予備戦力をも奪い合う結果となっていた。


1995年5月21日 午前10時15分 ベルカ公国 スーデントール市

悲惨、という表現すらまだ生ぬるい状況に南部戦線は追い込まれていた。
ディレクタスを追い出され、ハードリアンラインを食い破られて、ようやくスーデントールまでたどり着いたベルカ公国南部方面司令部は、もはや緒戦時の面影など残してはいなかった。
連合軍の侵攻速度が当初の予想より速かったため、薄く浅くしか防衛線を展開できなかったベルカ陸軍は、瞬く間に連合軍に押されて北へと後退させられた。
本来、その陸軍を援護すべき空軍だったが、南部戦線にかろうじて生き残っている3個航空師団は、頭数こそ揃っているものの、その多くが旧式の予備機で占められており、最新鋭の航空機を惜しげもなく繰り出してくる連合軍航空部隊に質・量の両面で苦しい戦いを強いられていた。
だが、残存部隊のパイロットたちは、連日続く邀撃戦闘や対地支援任務を、歯を喰いしばり体力酷使の状態で戦い、辛うじてといった程度ではあるものの南ベルカの制空権を確保していた。
だが、それも限界がある。
もはや、戦線の崩壊は時間の問題だった。
「…………」
無論、国防軍参謀本部から急遽派遣されたルートヴィヒ・アウグスト・テオドール・ノイマン上級大将にもそんな事は分かっていた。
だが、彼は諦めていなかった。
戦争でもスポーツでもそうだが、諦めた時点で負けてしまう。
そして彼は負けをすんなりと認められるほど腰抜けではなかった。
「それで、何かいい案は無いかね…?」
彼は、自身を囲むように半円形に席を埋め、いちように腕を組み、薄暗い蛍光灯の灯りの下で口を引き結んだまま押し黙っている参謀たちを見回して声をかけた。
眼光鋭いノイマン大将に対し、1人の参謀が挙手した。
「よろしいですか?」
「クラウス少佐か…何だね?」
作戦参謀を務めているクラウス・フォン・シュタウフェンベルク少佐が席を立つ。
「ここはやはり、戦力の温存をはかるべきと思います。」
「…というと?」
「現在、シェーン高原の第二次対空防衛ラインも破られ、宇宙技術局の開発したエクスキャリバーも居場所を知られ、さらに連合軍からのハッキングによりミラー衛星を利用した中継攻撃ができない状況です。エクスキャリバー防衛については、アルプレヒト・メルツ・フォン・クビルンハイム閣下を中心に目下作戦が立案中ですが、威力はともかく直線的な攻撃しかできないレーザー兵器一門ではできることは限られています。つまり、我々は現有戦力でこの局面を打開しなければならない…」
「そうだ。」
「この地図をご覧ください。」
彼は持っていた地図を作戦卓の上に広げた。
敵味方両軍の現在位置と、スーデントールに赤丸が書かれている。
「我軍の防衛線はここ…戦力の大半はヴァーデンボーゲン等の都市に配置されています。まずは、この防衛線を生産拠点であるスーデントール及びホフヌングを目的としたものに変更、規模を段階的に縮小し…」
クラウス大佐の指がなめらかに動き、ある場所で停止した。
「最終的にバルトライヒ山脈に集結させます。戦力集中の原則に従った、極めて賢明な判断であると愚考いたします。」

クラウスは一旦言葉を切った。
ノイマン大将は黙ったままだったが、他の参謀が挙手した。
確か、ヘルマン・フェーゲラインという名の中佐だった、とクラウスは記憶している。
彼は若くして南部方面軍参謀までなったクラウスにいい感情を持っていなかった。
「中佐殿、何か?」
「目的はあくまでも連合軍の駆逐。西部戦線および南部戦線に現存している機甲師団や航空機部隊をもって一気に攻勢に転じ、侵攻中の敵陸上戦力を叩いた方が良いのではないか?消極的な防衛策より、その方が多大な戦果を挙げられる。」
ヘルマンの意見に賛同する参謀たちが口々にそうだそうだと言うのを聞いて、クラウスは内心うんざりしていた。
戦局が不利になればなる程このような者が増える…正面から単純に殴りかかるだけで勝てると信じている者。
大した根拠も無くベルカ公国軍に不可能はないと本気で考えている参謀。
我が軍は今や量、質のいずれにおいても敵に劣っているというのに…。
「現在の航空戦力では、爆装機を護衛するための戦闘機を割く余裕がありません。また、機甲師団も制空権が敵に傾いている現状では身動きがとれません。これでは、損害ばかりが出て貴重な兵員を失うだけになります。現在の状況で我々が取れる選択は、どこまで敵の侵攻を遅らすことができるかだけです。」
「しかし……」
「バルトライヒ山脈は天然の城壁、そこを突破しノルトベルカへ侵攻するには時間がかかります。我々が今成すべきこととは…」
クラウスは、連合軍の侵攻ルートを示すラインを指でなぞり……再び顔を上げた。
「冬が再びやってきて、ノルトベルカが雪のカーテンに閉ざされるまで1秒でも遅く連合軍陸上部隊の前進を遅らすことです。」
「不可能だ!!」
「やってもみないうちから不可能と決めつけないで戴きたい。」
「だが、ラルド閣下は南ベルカの各都市に対し、官民問わず最後の1名まで断固抗戦せよとの談話を発表している。それを軍だけが尻尾を巻いて逃げ出しては、国民は納得しないぞ。それに、どうやって連合軍を足止めするつもりだ…」
「目標は敵の兵站…つまり補給部隊を狙います。少数の航空機隊や陸軍の特殊部隊によって弾薬輸送車から食料輸送車、給水車…必要とあらば、海軍の潜水艦部隊に協力を依頼し、北海や太平洋を航行中の補給船を攻撃します。これならば、旧式機や飛行時間の短い未熟なパイロットにも勤まります。その間に陸軍は順次後退、空軍はスーデントールにて急造を開始した航空機にて戦力を整え直します。無論、同時に外交努力によって停戦へ…」
「潜水艦による補給船攻撃など…無差別攻撃ではないか!そんな、伸るか反るかのような作戦で、公王陛下からお預かりした兵を死なせるわけにはいかん!!」
その言葉に、クラウスは激昂した。
「いいかげんにして頂きたい!現在の戦力で、B7Rを含む最低限の制空権を確保しつつ、連合軍に打撃を与え続けるのが我々に課せられた急務!!それともあなた達には、この他に、総兵力数倍の敵を相手に損耗した軍で勝つ秘策がおありなのか!?さらに市街戦となれば、一般市民が戦闘に巻き込まれるは必至…その方が国民の士気を下げることになりますぞ!!」
作戦会議室内は一転して静まりかえった。
連合軍の航空師団は10個師団、陸上部隊は15個軍……対するこちらは多くのベテランパイロットを失った3個航空師団とディレクタス以来の敗走で痩せ衰えた5個軍……単純に戦力二乗則を当てはめれば100対9、西部戦線から航空師団を引き抜いて、本国から予備の陸上部隊を加えても100対25…つまり4対1…子供が見ても、正面からの攻撃は自殺行為としか言いようがなかった。

「……で、稼げる時間の見込みは?」
今まで静観していたノイマン大将が重々しい口調で言った。
「…不明です。1ヶ月はおろか、半月と持つかどうかもわかりません。しかし、代替案は無いものと考えます。」
「……」
老将は腕を組んで唸った。参謀の全員が彼の動作に注目する。
「…仕方あるまい、クラウス少佐の案を主軸に詳細の検討に入ろう。」
「閣下!!!」
「ただし、全ての航空部隊をその任に当てるわけにもいかん。航空戦力を再編中の西部戦線から1個航空師団を派遣してもらい、ノルトベルカから補充要員を送った上で作戦行動にあたってもらう。…それくらいの受け入れは可能か?」
ノイマン大将の言葉に、兵站担当の参謀が頷いた。
ヘルマンは更に何か言い募ろうとしたが、彼を睨みつけるクラウスの鋭い視線に気付いたのか、顔を怒りで赤黒くしながら黙り込んだ。
ノイマン大将は席を立ち、居並ぶ参謀達の顔を順番に眺めていく。
「この窮状にあたり、我々は全滅を覚悟して望まねばならん。軍人として、このような作戦を検討するのは本意ではないが…もはや他に道は残されてはおらん。このまま朽ち果てるよりは、停戦への僅かな可能性に賭けるとしよう。」
そこまで言ったノイマン大将は、傍らの制帽を目深にかぶった。
参謀たちが一斉に起立し、それぞれに敬礼する。
「各員、最善を尽くしてくれ。転属させる航空部隊については、後ほど西部方面司令部と検討する。」
さいは投げられた。
「後世の歴史家は、私を無能な指揮官だと言うだろうか?」
ノイマン大将は、傍らに佇む副官のハインツ・レッカー大尉に向かって言った。
金髪をオールバックにしたハインツ大尉は表情を変えることなく答える。
「…いえ。自分が同じ立場でも、同じ作戦案を決定いたしました。」
「本当に?」
「ええ、閣下。」
ハインツの表情は全く動かなかった。
だが、ノイマンは彼の内心をひそかに読み取ったのか、薄く笑う。
「大人しく白旗を揚げるという選択もあった…だが私は、多くの若者に苦しい戦いを強いる道を選んだ…」
「…心中お察しいたします、閣下。」
ノイマン大将は、黙って頷いた。
明日からの苦しい戦いが、目に見えるようだった。
大型巡航管制機XB−O<フレスベルク>や、今回の侵攻の原因となった戦術核兵器V1や大陸間弾道弾V2のような物を造っている暇に、もっと国防について考えるべきだったと彼は思った。
三方が陸続きであるベルカが、周囲の全部を敵に回して戦うこと自体が、そもそも間違っている。
もはや攻勢など不可能であることを、ラルド派の軍人たちは未だに理解していないのだろうか。
彼は唇を噛み締め、暗澹たる気持ちで席を立った。

1995年5月21日 午後1時21分 ベルカ空軍 ブリューヘル基地

「補給の要請はどうなってる?」
ベルカ公国国防空軍第4航空師団を指揮している、フリードリッヒ少将は、副官のブルクハルト中佐に声をかけた。
彼の手元に残された兵力は制空戦闘専門の飛行隊が4個、攻撃機やマルチロール機で編成されている飛行隊が3個、哨戒機や輸送機のみで編成される飛行隊が2個、そして旧式の予備機が1個……1航空師団の戦力としてはお粗末に過ぎる。
加えてどの部隊も損耗が激しく、実際の戦闘力はこの60%程度に落ちるだろう……主戦場が南ベルカ一帯に移り、制空権そのものが危ぶまれている状況で補給物資が回ってこないのだ。
作戦参謀であるブルクハルト中佐は深刻そうな顔で首を振った。
彼も矢のような督促電を西部方面司令部……つまり、国防空軍西部方面司令長官ヘルマン・ヴィルヘルム・エンガー上級大将に補給を上申しているのだが、それが一向に受け入れられない。
「はい…。上申はしているのですが、なしのつぶてです。」
「武器弾薬に消耗部品…まったく、足りないものだらけだな。」
「……」
「いや、貴官は良くやってくれている。兵たちも泣き言ひとつこぼさずに防衛線を守っている。私はそんな貴官らに対して補給物資のひとつも渡してやれない…急に情けなくなってな。」
ブルクハルトは沈黙した。
上官の苦労は彼もよく知っていたからだ。
フリードリッヒ少将は頭を振って苦笑し、席を立つ。
補給が来ないからといって、ベルカ本国が主戦場になっている今、ここで敵に白旗を上げるわけにはいかない。
窓辺に立つ彼の目に、穏やかな日差しの下、多くの兵士たちが行き交っているのが入ってきた。
その多くは、前線から後退してきた陸軍の兵士だった。

「…実はな、先ほど直通回線で会議をした。」
「どなたとですか?」
「第6航空師団司令のダニエル・プラウウェルド中将と、第12航空師団司令のエルンスト・ウーデット中将……それにガルテンブルク基地司令のベルガー・アルデンホフ少将だ。どこもだいぶ厳しい状況でな、制空権の現状維持が精一杯だそうだ。」
「我々も似たような状況です。ブリューヘルやドルトムント周辺の防空線をなんとか維持していますが、状況は全く芳しくありません。」
「そうか…。2個飛行隊ずつの交代による防御も、物資がなくてはな…。現在警戒飛行中の部隊は?」
「ベルクタオベ隊とアルバトロス隊です。」
「ルインブルクからの合流組か……。では、帰還命令を出してくれ。」
ブルクハルトが怪訝そうな表情を浮かべる。
何か言いかけるが、フリードリッヒの方が先に口を開いた。
「国防軍参謀本部から直々の命令だ、ルインブルグ基地からの合流組を除いた第4航空師団所属機は、5月23日をもってノルトライン州のヴェストファーレン航空基地へ順次移動、南部方面の各軍と協力し作戦行動に移れ…とのことだ。」
「……これで、西部戦線に残る空軍の拠点はシュツットガルトの野戦基地とガルテンブルク基地…そしてハンザ基地くらいになりますね。北部方面はまだしも、南部方面は破れ傘寸前、海軍航空隊もほとんどが空軍に編入されて再編成は不可能、頼みの教導団はノルトベルカへ後退…ひどい様です。」
「全くだ…。」
フリードリッヒは無造作に撫で付けられた髪に手をやった。
「…だがな、中佐。」
真剣な面持ちでフリードリッヒ少将はブルクハルトを見据えて言った。
「ベルカには明日がある。たとえ公国が滅びようと、ベルカの国民は滅びない。この戦いの結末がどうあろうと、50年後には、世界が羨む発展を遂げるはずだ。私は若者たちを信じている、ベルカには必ずそれができるとな。」
ブルクハルトは、びくりと体を震わせた。
自分の尊敬する指揮官の言葉に、目が大きく見開かれる。
開きかけた口を引き結び、彼は相手の言葉を待ち受けた。
「そのために、我々は戦い続けなければならない。ベルカの明日を担う子供たちと、その母親たちを戦火から守らなければならない。公国が降伏するその日まで、わが第4航空師団は持てる戦力の全てを挙げて、連合軍を迎え撃つ。」
そして、直立不動の姿勢をとっているブルクハルト中佐に向かって言葉を継いだ。
「各飛行隊長と佐官を緊急に招集してくれ。移動についての打ち合わせに入りたい。」
「了解!」
古参の優秀な将兵のみにできる見事な仕草で踵を打ちつけると、ブルクハルト中佐は早足で立ち去った。
残されたフリードリッヒ少将は窓の外を疲れた様子で歩いていく人影を見つめる。
「最後の1ペニヒまで、負けの決まった勝負に賭け続ける戦いになるのかもしれんな。」

蒼穹に轟くジェットエンジンの咆哮。
格納庫脇で簡易チェアーに座る私の頭上を、1機のF−4Eに従えられた4機のF−16C<ファイティング・ファルコン>戦闘機がエンジン音も高らかに駆け抜けていく。
その余韻が気流の衝動となって伝わってきたのか、私の頬を一陣の風が撫でた。
国境付近への哨戒飛行を兼ねた訓練から帰投してきたのだ。
ドロップタンクを付けたままのところを見ると、今日は敵機との遭遇は無かったのだろう。
その5機編成の飛行隊はブリューヘル市の上空で一斉に旋回すると、ゆったりとした機動で滑走路へと機首を転じた。
その一糸乱れぬ動きに私は内心で舌を巻いた。
最近見慣れてしまった未熟練パイロットのそれとは、スピードも違えば、鋭さも数段上だ。
何より、互いの呼吸や間合いの取り方が見ていて惚れ惚れするほど鮮やかだった。
あの飛行隊は、こちらより腕がいい。

「ホルストッ……ここにいたのか。」
呼びかける声に、私は振り向いた。
微笑を浮かべるフレイル・カーディナンドの金髪が、雲の上、照り付ける日差しに鈍く輝いている。
元はルインブルク基地に在籍していフレイルも、現在では飛行隊再編のあおりを受けてブリューヘル基地に臨時に組み込まれていた。
彼の所属する「ストーム隊」ともすでに何度か一緒に飛んでいる。
「補充パイロット相手の飛行訓練じゃなかったのか?」
「ああ、隊長たちに召集がかかったから、開始がずれ込むみたいだ。僕の担当には腕の怪しいのが多くてね、編隊を組ますだけでも冷や汗ものだ。」
苦笑しながら話すフレイルの口調は、それでいて結構明るい。
この生活を楽しみだしている証拠かもしれない。
「俺は夜の組だよ。せっかくゆっくりしようと思ったのに。」
「こんな戦況だってのに、お前は何時見ても落ち着いてるな。やはり、私生活が充実してると違うのか?」
いつものフレイルに似合わないからかいの言葉に、私は慌てて言い返した。
「お…お前だって、ずいぶんと人気があるじゃないか!」
実際、フレイルはすこぶる異性の新兵に人気があった。
ソフトなマスクに、階級が下だろうが新兵だろうが区別せず優しく接する姿、それでいて開戦以来のエースパイロットとくれば人気がでないわけがない。
基地内には、彼に想いを寄せているとおぼしき女性兵士は数人いるはずなのだが、当の本人は知ってか知らずか常にひょうひょうと過ごしていた。
「いやいや、惚れられてるというよりも頼りになる兄貴扱いだよ。それよりも格納庫に行ってみるといい、補充パイロットの連中なんかピリピリしてる。あれじゃ、実戦前に胃潰瘍か何かで病院送りになるぜ。」
それもそうだろう、練習航空隊を経て前線に送り出されてきた補充のパイロットたちは、とりあえず実戦機を離陸させ、何とか地上へ降ろすだけの技術は持っていた。
だが、教育期間短縮の影響からか、その多くは基本技術以上のことを知らず、少しでも高度な操作を要求すると、たちまちバランスを崩して落伍する状態で、とても安心して見ていられない。
本来であれば、アカデミーや訓練校で基礎飛行に追われているレベルだ。
もちろん、そのまま実戦任務に就かせれば、足手まといどころか、ただ味方を混乱させるだけの役にしか立ちそうもない。
この状況を打開するためには、彼らの飛行時間を少しでも増やしてやる以外に方法がない。
フリードリッヒ少将の提案により、我々生き残りののパイロットは交代で彼らの指導に当たることとなった。

彼ら未熟練パイロットにとって、大出力の機体…つまりMiG-29<ファルクラム>やSu-27<フランカー>等はさすがに手に余るようで、無理をすれば事故が多発して貴重な機材を損耗するばかりか、かえって上達を妨げることにもなりかねない。
そこで、ガーランド大尉やスクラム・フォン・レイヴァン少佐が整備員と相談し、比較的扱いの容易なサーブ37<ビゲン>やMiG-21<フィッシュベッド>、F-8<クルセイダー>による訓練を一定期間実施し、これを乗りこなすことによって、最低限の自信を付けさせることから始めなければならなかった。
本来なら、練習航空隊…いや航空学校やアカデミーにいるうちに到達すべきレベル以下の者がほどんどだったわけで、そこからの指導を前線で行わなければならない我々としては、何ともやりきれない気持ちを抱かざるをえなかったものである。
幸い、ブリューヘル基地の航空燃料には相当の余裕があり、訓練用の燃料に事欠くことがなかったから、我々は昼夜を問わず彼らを空に上げ、操縦感覚を徹底的に叩き込むことに邁進した。
そのようにして、ビゲンなどに馴染んでしまえば、そこからスーデントールで急造しているサーブ39<グリペン>やF-16<ファイティングファルコン>に乗り換えることに、さほどの困難はない。
そう、時間がもう少し…そう、もう1ヶ月あれば、補充兵のほぼ全てが2機単位、もしくは1個飛行隊規模での編隊戦闘飛行を習得し、正面切って連合軍と渡り合える航空師団を再建させることができる。
全ては時間との戦いでもあった。

「ディトリッヒ・ケラーマン中佐ことは?」
「実地訓練は受け持ってもらったことはないけどね。座学で何度か講義を受けたことはある。」
「ズィルバー隊が慣熟訓練で駐屯してくれてるおかげで、ブリューヘル基地はまるでアカデミーに帰ったみたいだ。朝から未熟練なパイロットが絞られてる。ケラーマン教室流に鍛え上げれば、誰でも性根が座るってものさ。」
疲れきり、動く屍と化した補充パイロットたちの顔を脳裏に浮かべて、私は思わず吹き出した。
フレイルは言った。
「なぁ、ホルスト。俺たちは連合軍を完膚なきまでに叩き潰す必要はない……むしろそれは不可能だ。目的は1つ、連中にこれ以上の侵攻を断念させればいいんだ。」
「…そうだな。」
フレイルの言葉は、私の胸にぐっと圧し掛かった。
私が見上げた先……無限とも思える天空に広がる真っ青な空。
それこそが、この戦争における猛禽たちの存在証明だった。
……舞台は着実に整いつつあった。
紺碧の空記事全文

憧憬の空トレーラー(試作品)

2008/06/16 11:12

空飛ぶモグラさま用トレーラー
『憧憬の空』(試作品)

紺碧の空記事全文CM:0

プロフィール

viper

Author:viper
住処:西国(安芸の国)
職業:会社員
趣味:ネットサーフィン、ゲーム等々

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